2025.12.15 | u-map
1500坪の庭が“ケア”になる!グループホーム森津が示す新しい認知症ケアのかたち。

愛知県弥富市。名古屋駅からわずか20分とは思えない、のどかでゆったりとした田園風景が広がる場所に、1500坪の庭を持つグループホームがあります。
2000年代初頭に開設され、今年で23年。地域では最も古くから認知症ケアに取り組んできたこの施設は、「その人がその人らしく」という理念を土台に、穏やかな空気と開放感に満ちた生活環境を整えてきました。
今回の見学では、施設の特徴である「外に出ることを前提とした暮らし」、「薬だけに頼らない認知症ケア」、「スタッフの想いをチームで叶える仕組み」まで、細部に宿る理念と実践を丁寧に見せていただきました。
Contents
1500坪の庭で「外に出る」ことが前提の暮らし

森津グループホームを訪れて最初に驚くのは、その圧倒的な“庭の広さ”です。
居室の窓を開けるとウッドデッキに直接出られる構造になっており、そこから続く遊歩道はぐるりと一周約200メートル。ベンチや東屋、緩やかな勾配がついた散歩道が続き、まるで公園の中に暮らしているような感覚に包まれます。
「帰宅願望の強い方も、まずは外に出ていただきます。外気に触れ、歩き、座って休み、また歩く。そうすると自然と気持ちが落ち着くことが多いんです」
と菅田さんは語ります。
多くの施設では「外に出る=リスク」「徘徊につながる」という考えから、玄関や窓を閉める工夫に力を入れがちです。しかし森津グループホームでは、真逆のアプローチを取っています。
外に出ることを抑えるのではなく、「外に出たくなる」気持ちに寄り添い、安全に歩ける環境を整え、外で気持ちが落ち着くのを待つ。
薬で不穏を抑え込むのではなく、環境そのものが安心を生むケアです。
実際に見学中も、朝の時間に庭を歩く利用者さんの姿があり、スタッフは必要以上に付き添わず、遠くから静かに見守るスタンスを取っていました。
人の自由と尊厳を自然な形で守る環境が整えられていると感じました。
畑と果樹のある暮らし。「土に触れる」ことが認知症ケアになる
1500坪の庭の中心にあるのが、利用者さんと共につくり上げてきた“畑”です。
弥富市は農家出身の方が多い地域で、畑仕事や土に触れる感覚は、彼らの生活リズムや人生の一部です。
畑には、サツマイモ、大根、人参、葉物、金柑、イチゴなど四季折々の作物が育ちます。
専門業者が管理の一部を担っていますが、「そろそろ採れるよ」と教えてくれるのは、畑を見に来る利用者さん自身です。
また、「自分の畑を持ちたい」という方には一画をお渡しし、その方のやり方で育てていただくこともあります。
畑を耕す、苗を植える、水をやる、育ちを見守る、収穫してみんなで食べる——このプロセスすべてが、認知症の人にとって「役割」「楽しみ」「五感の刺激」「自己肯定感」の源になります。
土に触れること、植物の成長を見守ること、収穫したものを食べること。
これらは認知症の治療において、薬では補えない「生活リズム」と「情緒の安定」を引き出すケアとして機能しています。
認知症専門医とつくる「薬に頼り切らない」治療
森津グループホームでは、認知症専門医を主治医に迎え、内科とも連携した二重の医療体制を整えています。
特に印象的だったのは、薬の使い方です。
「毎日利用者さんを見ているのは現場のスタッフ。だから、合わないと思ったらすぐ教えてほしい」
と主治医が現場を信頼し、先回りした減薬の指示(例:朝のみ抜く、昼は中止してよい)まで出している点です。
現場は「何となくいつもと違う」という変化をすぐ専門医に相談でき、医師もスピーディーに調整を行う。
その結果、BPSD(周辺症状)だけを上手に抑え、利用者本人の“らしさ”が戻ることが増えたといいます。
薬は「敵」でも「万能薬」でもなく、生活環境・関わり方と並ぶ“ひとつの手段”なのです。
また建物の中に案内されると、グループホームとしては珍しい“機械浴”がありました。
「介助が必要な方には機械浴として使えますが、自立されている方は一般浴に近い形で座ったまま入っていただけます。“できることを奪わない”ための機械浴なんです」
と菅田さん。
近年は「機械浴=重度者のための設備」というイメージが強いですが、ここでは「能力を適切に使い続けるための補助装置」という位置づけです。
完全に支援するのでも、完全に自立を求めるのでもなく、「その人の今に合うバランス」をつくり出しています。
スタッフ一人の想いを「チームのケア」に変える仕組み


森津グループホームが大切にしていることが、「その人がその人らしく」という理念です。
この理念を“現場で使う言葉”として落とし込んでいます。
とくに感銘を受けたのが、スタッフの想いを扱う姿勢です。
菅田さんは、スタッフにこう伝えていると言います。
「『この人にこうしてあげたい』と思ったら、必ずユニット会議で共有しなさい。一人の課題にしないこと」
たとえば、喫茶店が好きだった利用者さんを外に連れていけない時——
「じゃあ、このフロアを喫茶店にしよう」と提案し、全員で“森津喫茶店”をつくる。
椅子に赤い布をかけ、メニューを作り、スタッフもエプロン姿に。
利用者さんは「喫茶店に行った気分」を味わい、スタッフは「やってあげられた」という満足感を得られる。
こうして、個人の想いが“チームで叶えるケア”へと昇華されていきます。
この文化があるからこそ、理念は机上の空論ではなく、現場に浸透した「判断基準」として生き続けています。
家族会とバーベキュー。預けっぱなしにしない関係づくり
庭の一角には、立派なバーベキュー施設とステージがあります。
これは年に3回行われる「家族会」のためのものです。
夏はBBQ、秋はサンマ焼きや焼き芋。
畑で収穫したサツマイモをみんなで味わう日もあります。
隣接する施設と合わせて約100名が集まり、地域のダンスチームが出演することもあるなど、まるで小さなフェスのような賑わいになります。
「入居したら家族との距離が遠くなる」のではなく、
「入居したからこそ家族との思い出を重ねられる」。
そのための“場”をつくり続けている点に、森津グループホームならではの温かさを感じました。
“暮らしを支える”を超えて、地域の未来をひらく場所へ
森津グループホームでは「人が日常を心地よく生きられること」を、これほど丁寧に形にできるのかと驚かされる時間でした。
外に出ることを前提にした1500坪の環境や、畑で土に触れる豊かな感覚、薬だけに頼らない治療、そしてスタッフの想いをチームで実現していく文化。
どれも単発の取り組みではなく、“生活そのものがケアになる”という考え方が貫かれています。
こうした実践を積み重ねる中で、この場所は単に「安心して暮らせる施設」ではなく、利用者・家族・地域が緩やかにつながり直す“交差点”のような役割を担い始めています。家族会や畑での収穫、庭で過ごす時間の共有は、人と人が自然に交わるあたたかな風景をつくり出し、地域の中での存在感を少しずつ広げています。
そして何より印象的なのは、森津グループホームが“今あるケアの質”に留まらず、近い将来、この地域に新しい風を吹かせるハブとしての役割を模索していることです。
まだ構想段階ではありながらも、「介護施設の枠を越えて、人が集い、関わりが生まれ、地域に活気をもたらす拠点にしたい」という思いは確かに宿っていました。
“介護施設らしさ”を超えて、生活・地域・未来をつなぐ結び目のような存在へと進化しつつあります。
静かな庭に吹く風や畑の匂い、スタッフの温かな声掛けのすべてが、「その人がその人らしく生きられる場所とは何か」を問い続ける姿勢そのものです。
これからの認知症ケア、さらには地域福祉のあり方を考える上で、この場所が生み出していく風景は、きっとひとつの指針になっていくはずです。
施設概要

- 運営会社 株式会社森津介護サービス
- 施設名 グループホーム森津
- HP https://morizu-kaigo.jp/
- 住所 〒498-0021 愛知県弥富市鳥ケ地2丁目176番地3
- 業種 グループホーム
※こちらは個人的な見解を含め書いておりますので実際に感じることと異なる場合もございますがご了承くださいませ。










