2025.05.29 | u-map

「共に生きる」を形にするデイサービス田園倶楽部|地域共生と文化を育む福祉の拠点。

「共に生きる」を形にするデイサービス田園倶楽部|地域共生と文化を育む福祉の拠点(埼玉県飯能市)

 

埼玉県飯能市は埼玉県の南西部に位置し、古くは林業と織物のまちとして栄えました。

豊かな自然と清らかな空気に囲まれたこの土地に ぬくもり福祉会たんぽぽはあります。

約40年前、福祉の営利化が進む中で設立されたこの法人は、NPO法人として“共生”の思想を貫き、長きにわたって地域に根差した活動を展開してきました。

法人理念は、「困った時はお互い様」です。

1999年埼玉県第1号として、特定非営利活動法人の認証を得ました。それまでは、「営利を求めない自由な発想で、福祉の形をつくりたい」という想いから始まった活動は、今では地域の高齢者福祉に欠かせない存在になっています。

NPOという形だからこそ、行政や企業に縛られることなく、柔軟で挑戦的な取り組みが可能となっています。職員による演劇公演、地元小学校との福祉教育の交流や中学校との職業体験、他の介護施設ではあまり見られない活動も多く展開されています。

注目すべきは、地域住民との“協働”の姿勢です。運営には多くのボランティアが関わっており、中には20年以上携わっている方もいるとのこと。定年後の第二の人生を“地域福祉の担い手”として過ごす人も少なくありません。

こうした関係性がぬくもり福祉会たんぽぽの最大の財産であり、地域福祉の理想形を体現しているといえます。

訪問当日は寒い中、笑顔で出迎えてくれた職員の姿勢からは、利用者と真摯に向き合う姿勢が自然と伝わってきます。この場所が単なる福祉施設ではないことを肌で感じ取りました。その法人の中の一つデイサービス田園倶楽部についてご紹介していきます。

 

田園倶楽部の最大の特徴のひとつが、多彩なレクリエーション活動の存在です。中でも人気を集めているのが「シークレットツアー」。行き先を事前に明かさないことで、参加者に“旅”のような期待感と高揚感をもたらす工夫です。

当日の朝、職員が手作りのパンフレットを配り、仄めかすようにヒントを出しながら出発します。「今日は海かな?」「山かな?」と利用者同士が笑顔で会話を交わし、出発前からワクワクした雰囲気が広がります。行き先は、近隣の名所や花の名所、時には温泉施設やレストランなど多岐にわたります。

このツアーの背景には「高齢者にこそ、日常に彩りを」という理念があります。前理事長の桑山さんは、デイサービスが“日課”のような義務的存在になることを危惧し、「外に出て、感動し、語り合う時間が人間の心を豊かにする」と繰り返し語っていたといいます。職員もその意志を受け継ぎ、単なるレクリエーションではなく、“日常の冒険”として企画を練り上げています。

たとえばある春の日のシークレットツアーでは、行き先は「長瀞のライン下り」でした。電車に揺られながら、利用者の方々は「八高線ということは群馬県かしら?」「東上線に乗り換えるということは、東松山かしら?」などと想像を膨らませて会話を楽しんでいました。道中、電車の中では職員が用意したクイズ形式の“行き先ヒント大会”が行われ、「川を下る」、「昼食は食べ放題」などのヒントに盛り上がりを見せていました。

目的地に到着すると、眼前に広がる荒川に歓声があがりました。車椅子の方も

介護職員が介助をして舟に乗り込みます。荒川のエキサイティングな渓流に身を任せて爽やかな新緑の風を感じながら「気持ち~最高!」という利用者様の声が写真でも感じ取れるようです。

 

別の日には、横浜中華街へ電車で出掛け、昼食は中華の食べ放題を体験して、山下公園まで歩いて氷川丸の前で写真撮影。そのような身体状態の方も参加希望があれば一緒に出掛けます。社会性を維持するこの企画は切符の購入や飲食店での支払い、お土産の選ぶ、支払うも利用者がI-ADL訓練で実施しています。

このように田園倶楽部のシークレットツアーは、単なる娯楽ではありません。それぞれの利用者が“初めての体験”に出会い、“非日常”を通して、自分自身を少し誇らしく感じたり、感情を豊かに動かしたりする貴重な時間となっているのです。

準備には職員の並々ならぬ努力があります。行き先選定から下見、安全確認、昼食の手配、当日の移動導線まで、細かな配慮が求められます。特にシークレット形式であるがゆえに、当日トラブルが起きても柔軟に対応できるチーム力が不可欠です。それでも職員がツアーを続けるのは、「みんながキラキラした顔で帰ってくるのを見るのが、何よりの喜びなんです」と話すように、その笑顔が原動力になっているからです。

“行き先が秘密”という少しの仕掛けが、人の心にこんなにも変化を生む。田園倶楽部が仕掛ける“日常の冒険”は、これからも多くの高齢者の心を揺さぶり続けることでしょう。

施設を歩いていて、まず感じたのは、接遇のレベルの高さです。どの職員も自然に目線を合わせ、明るく声をかけています。「〇〇さん、今日の体調はいかがですか?」、「昨日の体操、頑張っていらっしゃいましたね」といった言葉が、ごく当たり前のように交わされ、そこには一人ひとりの心身の状態を深く理解しようとする姿勢がにじみ出ています。

言葉だけではありません。姿勢、表情、間合い、声のトーン――すべてが丁寧で揃っており、まるで一つの“接遇文化”がこの場所に根づいているかのような印象を受けました。来客対応も同様で、玄関先でのあいさつ、名札の提示、上着の預かり方ひとつをとっても、行き届いた対応が自然に行われています。

この接遇の徹底には、明確な施設方針があります。たんぽぽでは定期的に「接遇研修」を実施しており、職種や年次に関係なく全員で“おもてなし”の原点に立ち返る時間を共有しています。特に新人職員には入職時から数回にわたって“接遇トレーニング”が行われ、「ただのマナー」ではなく、「利用者の人生と向き合うための姿勢とは何か」を共に考える機会が設けられています。

職員のひとりは、こう語ってくれました。

「ここでは“介護をしてあげている”という意識ではなく、“生活をご一緒させていただく”という感覚が大切にされています。利用者の方々は、人生の大先輩であり、私たちはその日々の一部に加えていただいているという気持ちで接しています」

この考え方は、日々の生活支援のあらゆる場面に反映されています。たとえば入浴の際、ただ体を洗うのではなく、当たり前ですが「今日はどんな湯加減にしましょうか?」と確認し、その日の体調や気分に寄り添ったケアがなされます。食事の時間も同様で、職員は決して“配膳係”ではなく、「お味はいかがですか?」「今日はこの煮物が人気なんですよ」と会話を交わしながら、食卓に温かみを添えています。

また、こうした接遇は単なる言動の統一にとどまらず、施設全体の空気感に影響を与えています。穏やかで、かつ活気に満ちた空間が広がる中で、利用者同士の自然な会話も生まれやすくなっています。まさに“人が人として尊重される場所”がここにはあるのです。

このような“おもてなし”の姿勢は、日々のレクリエーション活動にも色濃く反映されています。田園倶楽部では、体操や脳トレ、作品づくりなどの定番メニューだけでなく、年間を通して実に多彩なイベントが組まれています。

たとえば、春は施設内の中庭を活用した「花見カフェ」。満開の桜の下で甘酒と和菓子を楽しむひとときは、毎年多くの利用者が楽しみにしている行事です。職員は着物姿で接客にあたり、利用者を“お客様”としてもてなします。「こんなに丁寧に接してもらって、まるで旅館に来たみたいだよ」と、ある利用者が微笑んでいたのが印象的でした。

夏には「縁日イベント」が開催され、ヨーヨー釣り、かき氷、輪投げといった屋台風のブースが施設内に並びます。職員も法被を着て参加し、利用者と一緒に童心に返って楽しむ様子はまるで本物のお祭りのようです。「昔、子どもを連れて行った町内会の夏祭りを思い出した」と、涙ぐむ方もいました。

さらに秋には、「食欲の秋」をテーマにした“デザートビュッフェ”も開かれます。利用者が好きなスイーツを自分で選び、カフェ形式で提供されるこの日には、施設内が甘い香りに包まれ、スタッフがバリスタ風の衣装でコーヒーをサーブします。

こうしたイベントは、単なる“余暇”ではなく、日常に刺激や感動をもたらし、人生に再びリズムを取り戻す大切な時間です。そして何より、そこに流れる“もてなしの心”が田園倶楽部の空気を特別なものにしているのです。

「うちの母は、ここに通う日は朝からウキウキして準備を始めます。職員さんたちの優しさと、楽しい時間が、何よりの薬になっているようです」とご家族の声もありました。

接遇とは、単なるサービスの質を高めるための手段ではなく、“相手の人生に敬意を払う”という文化の根幹です。たんぽぽでは、その文化が確かに根づき、職員ひとりひとりの言葉や振る舞いを通して、利用者に安心と尊厳を提供し続けています。

石川さんは2024年に理事長に就任し、それ以前に長年この法人を支えてきた桑山和子さん(元会長)のバトンを受け継ぎ、新たな時代にふさわしい地域福祉のあり方を模索し続けています。

桑山和子さんは、地域福祉の創成期から飯能市の地域福祉をけん引してきたキーパーソンのひとりであり、「地域で生き、地域で老いる」をテーマに、多世代が自然に関わり合う暮らしを目指して活動を続けてきました。“自律的な福祉”、”共生する地域”という思想が組み合わさり、法人は40年近くにわたり、飯能の地に根差した取り組みを積み重ねてきたのです。

こうした理念の象徴的な取り組みが、介護保険事業、障害者支援、児童福祉、飯能市からの委託事業です。

利用者様へのサービス提供だけに留まらず、そのご家族や地域のボランティアの方、地域住民と一体になって地域福祉を創っている。施設という枠を超え、暮らしそのものを共有する“場”としての役割を果たしているのです。

石川さんは、こうした取り組みをさらに広げ、「地域に開かれた福祉施設」を超えて、「地域の一部として息づく“暮らしの交差点”」を目指したいと語ります。

最近では地元大学と連携して「高齢者向け講座」や「地域子育て支援」といった取り組みも始まり、多世代交流や教育の場としての機能も強化されています。

桑山和子さんが長年貫いてきた「誰一人取り残さない地域を、私たちの手でつくる」という信念は、今も法人の根底にしっかりと息づいています。そして、それを受け継いだ石川さんが、より開かれたかたちで次のステージへと歩みを進めているのです。

“特別なこと”ではなく、“当たり前”として人と人が支え合う。それを何十年も継続し、形にしてきたたんぽぽの姿勢には、今後の地域福祉のあり方に対するひとつの明確な答えが込められています。

今、「福祉の枠を超えた価値創造」というビジョンのもと、新たな地域共生のかたちを模索しています。

石川さんが力を入れている取り組みのひとつが、「地域リビング構想」です。これは、デイサービスという枠組みを越えて、地域のあらゆる人たち――高齢者、子ども、障がい者、外国人、そしてその家族まで――が自然に集い、つながり、学び合える“ひらかれた場”をつくろうという試みです。

「高齢者の居場所」であることはもちろんですが、それだけにとどまらず、地域の課題や孤立、分断を解消するための“共生型コミュニティ拠点”へと施設の役割を広げようとしています。すでに施設内では、地域の子育て世代と高齢者が一緒におやつを作ったり、地域の若者がボランティアとして日常的に関わったりする風景が日常となりつつあります。

将来的な構想としては、飯能市の自然という環境を活かして地域防災の推進とバーベキューなどの融合を考えた、自然の中の炊事場の構想。

 

 

さらに、地元の大学や高校と連携した「福祉人材育成プログラム」も計画中です。若い世代が福祉現場のリアルな魅力に触れ、地域とのつながりを通じてキャリアや生き方を考える機会を創出することを目指しています。その一歩として、すでに学生による実習やインターンシップの受け入れが始まっており、現場職員が“教える側”として若手育成に関わる仕組みも整いつつあります。

「福祉は、制度やサービスではなく“文化”だと考えています。その地域に根づいた文化をどう育てるか。誰かのために何かをするのではなく、誰もが自然に関わり合う日常をどう形にするか。それが今後めざす姿です」と石川さんは語ります。

こうした言葉からは、従来の“支援する・される”という一方向の関係性を越え、誰もが主体となって共に暮らす場を築いていくという強い意志がにじみ出ています。

40年近くものあいだ、飯能という町で変わらぬ理念を貫きながらも、常に時代に合わせた変化と挑戦を続けてきました。そこには、「支える・支えられる」という関係を超えて、人と人がつながる“場”のあり方が見えました。

誰かの役に立ちたいという想い、人生を豊かに生き抜きたいという願い、それを支える仲間たちがいる地域。そのすべてが、このデイサービスには詰まっています。

田園倶楽部のような存在が、これからの地域福祉の希望となることは間違いありません。

“福祉”という言葉に収まりきらない、“暮らし”そのものを支える場所へ――田園倶楽部の挑戦は、これからも続いていきます。

「共に生きる」を形にするデイサービス田園倶楽部|地域共生と文化を育む福祉の拠点(埼玉県飯能市)

 

  • 運営会社 ぬくもり福祉会たんぽぽ
  • 施設名  デイサービス田園倶楽部
  • HP    https://care-net.biz/11/tanpopo/b15_d.php
  • 住所   〒357-0047 埼玉県飯能市落合126
  • 業種   通所介護

 

見学などのご要望がございましたら上記のHPへお問合せください。

 

※こちらは個人的な見解を含め書いておりますので実際に感じることと異なる場合もございますがご了承くださいませ。

 

 

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