2025.05.27 | u-map
奈良・桜井発!“しぜかが”で人生に寄り添う多機能型施設。

高齢化が急速に進む日本において、介護のあり方は今、かつてないほど問われています。長寿社会は喜ばしい一方で、認知症や独居、老々介護といった複雑な課題が山積しています。そんな中、奈良県桜井市にある「芝の里」は、「自然を科学した介護」というユニークな理念を掲げ、高齢者一人ひとりの生活と尊厳に寄り添ったケアを実践している施設です。本稿では、「芝の里」の設立背景から、具体的な取り組み内容、入居者への思いや今後の展望までを通して、同施設が目指す介護の未来像を紐解いていきます。
Contents
設立の背景 〜制度と理念の融合から生まれた拠点〜
芝の里が誕生した背景には、制度改革と、それに伴う明確な理念がありました。2000年にスタートした介護保険制度は、それまで家族頼みだった介護を社会全体で支える仕組みへと変える大きな一歩でした。とはいえ、現場では「在宅か施設か」という二者択一のジレンマが根強く残っており、制度の隙間で苦しむ高齢者やその家族は少なくありませんでした。
そんな中、2006年に在宅介護と施設介護の中間的な位置づけを目指した地域密着型の介護サービス制度「小規模多機能型居宅介護」が新設。
通い(デイサービス)、訪問(ホームヘルプ)、宿泊(ショートステイ)を一体的に提供することで、自宅を中心に個々の生活スタイルに応じた柔軟な支援を行います。特に環境の変化に敏感で影響を受けやすい認知症の方に対し、住み慣れた環境で幅広く対応ができる点が大きなメリットとなっています。
芝の里を運営する「有限会社 祥寿会」の芳野代表は、この新しい制度の理念に深く共感し、「制度が後押しする形で、自分たちが目指しているケアのかたちを実現できる」と感じたそうです。
その背景には、すでに運営していたグループホームで直面した、「家に帰りたい」と願う利用者がいても、制度上、自由に家に戻ることが難しいという制約がありました。認知症の方の中には、グループホームの環境が合わず、在宅に近い環境で暮らした方が症状が安定するケースも多々あります。こうした状況を何度も目の当たりにしてきた代表の芳野氏は、「家に帰りたい」という自然であたりまえとも言える願いを叶えるための支援の必要性を強く感じていました。
そのニーズに応える形で誕生したのが、「芝の里」です。制度と理念、現場の声が三位一体となって形になったこの施設は、まさに”制度ありき”ではなく、”暮らしありき”の発想から生まれた拠点でした。
自然を科学した介護とは? 〜多機能を重ねた生活支援〜

「自然を科学する介護」というフレーズは、一見すると抽象的に思えるかもしれません。しかし芝の里においては、これは日々の実践に裏打ちされた、非常にリアルな言葉です
自然を科学した介護とは?「自然」(普通やあたりまえ)「科学」(分析や考察)を通して、介護の現場に活かしていこうとする祥寿会の理念です。
『しぜかがをもとに、その人らしい暮らしを支えるために』
◉大切にする5つのあたりまえ
- 開かれた環境 – 日中は施錠しません
- 共に食べる – 介護スタッフと一緒に食事をします
- 椅子に座る – 車椅子のままにせず、体に合った椅子を使います
- トイレで排泄する – オムツに頼らず、できる限りトイレを利用します
- 普通のお風呂 – 機械浴を使わず、入浴の心地よさを大切にします
これらは従来の介護運営の常識とは異なりますが、認知症になっても人としての尊厳を大切にし、一人ひとりの「できる力」を引き出し、できることを奪わない支援を行うことで、本人の暮らしを支えると取り組みです。「できる力」を引き出す介護を実践することで、利用者とスタッフ双方にとってより良い介護の実現を目指しています。
詳しくはぜひ、祥寿会のウェブサイトやYouTubeをご覧ください。
高齢者への役割・生きがいの提供 〜「してもらう」から「できる」への転換〜
芝の里が大切にしているのは、「高齢者にとって役割や生きがいとは何か?」という問いに対して、明確に向き合う姿勢です。単に食事や入浴といった日常のサポートを提供するだけでなく、「ご本人が何をしたいのか」「どんな生活を望んでいるのか」という視点を何よりも優先します。
たとえば、料理が得意だった方には一緒に食事づくりをお願いしたり、畑仕事が好きな方には庭での活動を任せたりと、その人が「自分の力を活かせる場」を設計していきます。こうした日常の積み重ねが、認知症の進行を遅らせたり、QOL(生活の質)の向上につながると考えられているのです。



また、スタッフもただの「支援者」として関わるのではなく、「生活のパートナー」として寄り添い、時には冗談を交えながら心の通い合いを育んでいます。こうした関係性の中で、高齢者が自分の存在を再確認し、他者と関係性を築いていく場面が日々生まれているのです。
「支える」ではなく「ともに暮らす」——それが芝の里のケアの根底にある思想です。
今後の展開と地域との共生
芝の里を運営する「有限会社 祥寿会」は現在、奈良県内で桜井市を拠点に5つの施設を展開しており、地域に根ざした介護モデルとしての広がりを見せています。
将来的には、さらに地域包括ケアの核として、行政や医療機関、住民らと連携を深めることで、「介護が必要になっても安心して暮らせるまちづくり」の実現を目指しています。そのためにも、現在は新たなスタッフの募集や育成にも注力しており、「理念に共感し、現場で力を発揮できる人材」が求められています。
芝の里の取り組みを通して感じられるのは、「人間らしい老いを、どう肯定的に支えるか」という真摯な問いかけです。歳をとっても、認知症になっても、誰もが「自分らしく」いられる社会をつくるために、芝の里は現場から変革を起こし続けています。
「自然を科学した」という視点が、ただの理念で終わることなく、日々のケアの中で生きた実践として根づいているその姿は、これからの介護の理想像を示していると言えるでしょう。
人生の最終章を、穏やかに、しかし確かに歩んでいける場所——芝の里は、まさにそのような介護のあり方を体現する場なのです。
施設概要

- 運営会社 有限会社 祥寿会
- 施設名 多機能型介護ホーム芝の里
- HP https://shoujukai-inc.jp/
- 住所 〒633-0074 奈良県桜井市芝1025-5
- 業種 小規模多機能型居宅介護
見学などのご要望がございましたら上記のHPへお問合せください。
※こちらは個人的な見解を含め書いておりますので実際に感じることと異なる場合もございますがご了承くださいませ。