2025.12.23 | u-map
1万坪の中に息づく「地域コミュニティ」という挑戦

「施設全体が地域コミュニティになっている施設は見学へ行かれましたか?」
今回訪れたのは、愛知県長久手市にある社会福祉法人が運営する、通称「ゴジカラ村」。
約1万坪という広大な敷地の中に、高齢者施設だけでなく、幼稚園、保育機能、地域交流スペース、かつてはカフェやボランティア拠点までが点在し、「村」と呼ばれる理由が、足を踏み入れた瞬間から肌感覚で伝わってきました。
ここにあるのは、「地域に開かれた福祉」を本気で形にしようとした、40年近い試行錯誤の積み重ねでした。
Contents
ゴジカラ村が生まれた背景
――介護ありきではなかった、始まりの物語。
このコミュニティの原点は、実は高齢者介護ではありません。
創設者であり、元市長でもあった吉田一平氏が最初に手がけたのは幼稚園でした。
当時、雑木林に囲まれたこの土地にあったのは、「子どもたちの声が聞こえる場所をつくりたい」「人が集い、自然に交わる空間を残したい」という想いでした。
その延長線上で、時代の流れとともに高齢者施設が加わり、結果として「多世代が同じ空気を吸う」場所が生まれていったのです。
ゴジカラ村は、介護保険制度ありきで設計された施設ではありません。
制度が始まる前から存在していた「場」に、後から介護が加わり、この成り立ちこそが現在の独自性と、同時に多くの課題を生み出す背景でもあります。
また「ゴジカラ村」という名称には、この場所が大切にしてきた明確な思想が込められています。
ゴジカラとは、「5時から」を意味する言葉です。これは、時間や効率、数字に追われる“5時までの社会”ではなく、仕事や役割を終えた5時からの時間をどう生きるか、その豊かさを大切にしたいという想いから名付けられました。
高齢者にとっても、子どもにとっても、地域で暮らす人にとっても、人生の後半や余白の時間こそが、その人らしさを取り戻す大切な時間です。ゴジカラ村は、そうした「時間に追われない暮らし」「役割から解放された後の生」を肯定する場として構想されてきました。
また、約1万坪という広大な敷地に、介護施設だけでなく、保育や教育、地域機能が点在し、人と人が自然に行き交う姿は、まさに一つの“村”のような風景をつくり出しています。施設ではなく、暮らしの延長として存在する福祉のかたちを表現する言葉として、「ゴジカラ村」という呼び名が定着していったのです。
学校、保育、介護、地域が混ざり合う日常


敷地内を歩いていると、子どもたちが笑い声を上げながら駆け回り、そのすぐ横を車椅子の高齢者が職員と一緒に散歩している光景に出会います。
幼稚園の送り迎えに来た保護者と、施設の利用者が自然に挨拶を交わす。
「交流イベント」ではなく、「日常としての交流」が、ここでは当たり前のように存在しています。
かつては地域カフェがあり、ボランティアの拠点があり、有償ボランティアとして地域の高齢者が門番役を担う時代もありました。
現在は、時代の変化とともに形を変えていますが、「地域の人が関わる余白」を残し続けている点は、今も変わっていません。
この「余白」があるからこそ、ゴジカラ村は施設でありながら、完全に閉じた場所にならずに済んでいるのだと感じました。
理念を“現場の言葉”に変えていくプロセス

この法人には、創設者が大切にしてきた明確な理念があります。
「遊びをせんとや」「人としてどう生きるかを考える場であること」。
高齢者を「利用者」ではなく、杜に生きる人=「杜人(もりびと)」と呼ぶ文化も、その延長線上にあります。
ただし、理念が長い歴史を持つがゆえに、時代とのズレや、現場での解釈の違いが生じているのも事実でした。
「頑張らなくていい」という言葉が、時に都合よく使われてしまうなど理念が便利に転用され、業務改善や責任の所在が曖昧になる場面も、過去にはあったといいます。
その課題に対し、法人では理念を抽象論で終わらせず、「行動指針」として言語化する取り組みを進めてきました。
「優しく、易しい方法を考えよう」。
これは単に精神論ではなく、業務改善や生産性向上につなげるための、現実的なメッセージなのです。
とはいえ、理念が現場の隅々まで浸透するには時間がかかります。
目の前の業務で手一杯な職員にとって、理念を自分ごととして咀嚼する余裕をどう生み出すか。
この問いは、今もなお続いています。
見えてきた現状と課題
ゴジカラ村の魅力は、同時に運営上の難しさでもあります。
1万坪という敷地は大きなポテンシャルである一方、維持管理の負担は想像以上です。
雑木林は景観としては素晴らしいものの、落ち葉や老朽化への対応、人手不足の中での管理は簡単ではありません。
また、長年「フランチャイズ的」に各事業所へ裁量が委ねられてきた歴史から、法人としての統一ルールやバックオフィス機能の整備が遅れていた時期もありました。
就業規則や人事評価制度、キャリアパスが整っていなかったことで、他業界から転職してきた人材が不安を感じ、定着しにくい時代もあったといいます。
現在は本部機能を強化し、人事・広報担当を配置するなど、少しずつ体制整備が進んでいます。
離職率も15%前後から10%程度まで改善しており、「採用しない基準」を含めた人材戦略が成果を見せ始めています。
印象的だったのは、「生え抜き」だけに頼らない人材登用への意識です。
他業界からのキャリアチェンジ人材を管理職に登用することで、これまで当たり前だった慣習に疑問が投げかけられるようになりました。
「うちは特別だ」という内向きの自信から、
「他と比べてどうなのか」「社会全体の中で何ができるのか」という視点へ。
管理職の意識が少しずつ変わり始めている様子が、随所から感じ取れました。
役割等級基準書や人事評価制度をゼロから構築し、キャリアパスを明示したことで、
「ここで働き続けた先に何があるのか」を描けるようになった点も、大きな前進です。
ゴジカラ村が示す、これからの介護のヒント
ゴジカラ村は、決して完成された理想郷ではありません。
むしろ、課題は多く、試行錯誤の真っ只中にあります。
それでも、この場所が多くの介護関係者から「一度は見たほうがいい」と言われる理由は明確です。
介護施設を「サービス提供の場」だけで終わらせず、
地域、世代、職種が交わる「場」として捉え直そうとしているからです。
大きいからできたのではなく、
小さな選択を積み重ねてきた結果、今の形がある。
そのプロセスこそが、最も学ぶべき点なのだと感じました。
介護の未来を考えるとき、
「制度」や「人手不足」だけで語るのではなく、
「どんな地域を残したいのか」という問いに立ち返る必要がある。
ゴジカラ村は、その問いを静かに、しかし確かに投げかけてくる場所でした。
施設概要

- 運営会社 社会福祉法人 愛知たいようの杜
- 施設名 特別養護老人ホーム 愛知たいようの杜
- HP https://gojikaramura.jp/
- 住所 〒480-1148 愛知県長久手市根獄1201
- 業種 特別養護老人ホーム
※こちらは個人的な見解を含め書いておりますので実際に感じることと異なる場合もございますがご了承くださいませ。













