2025.12.26 | u-map
銭湯が地域拠点!介護×就労×地域をつなぐ“木田の里”の挑戦!

「介護施設がスーパー銭湯を運営しているらしいですよ」
そんな話を聞いたとき、正直に言えば半信半疑でした。温泉跡地を活用した施設なら聞いたことがありますが日常的に地域の人が通う“スーパー銭湯”が、介護・福祉の中核に据えられている例はほとんどありません。
今回見学した木田の里、そして連携するあい福の里の取り組みは、その想像を大きく超えてきました。ここで展開されているのは、単なる複合施設ではありません。介護、就労、地域、産業を一本の線でつなぎ、「働くこと」を福祉の中心に据え直す挑戦でした。
Contents
介護×就労×地域×スーパー銭湯。銭湯は“地域の入口”であり“仕事の源泉”。


木田の里は、複数の介護・就労機能が一つの拠点に集約された複合施設です。
高齢者が日常的に通う介護サービス、住宅型高齢者向け住宅、障がいのある方が働く就労支援の場、そして子供たちが過ごす保育や療育の機能が、同じ生活圏の中で共存しています。
デイサービスでは、高齢者が日中を過ごす「居場所」として、入浴や食事、機能訓練、交流の機会を提供されています。
0~2歳児を対象とした保育では、子育て中で働くことが難しい家庭を支え、安心して仕事に出られるよう子供を預かる役割を担っています。単なる預かりではなく、子ども一人ひとりの成長を見守り、育ちを支える拠点となっています。
児童発達支援・放課後等デイサービスでは、障害のある子ども達を対象に特性や発達段階に応じた支援が行われています。年齢や状況に合わせた関わりの中で、子どもたちが安心して過ごせる環境が整えられています。
サービス付き高齢者向け住宅は地域の方を中心に、県外から入居されている方もおり、様々な背景を持つ高齢者の方が暮らしています。ここでは介護が前提の暮らしではなく、自立した生活を続けながら安心して日常を送ることを大切にしています。
就労継続支援事業所(A型・B型)では障がいのある方が、それぞれの特性や体調に応じた形で働くことができ、雇用契約を結ぶA型と、より柔軟な働き方が可能なB型の両方が運営されています。
これらの機能が隣接し、日常の動線や空間を共有することで、介護・就労・地域が分断されない構造がつくられています。
木田の里は、介護サービスに就労を付け加えた施設ではなく、保育や療育を含めた暮らしの中に、介護と仕事が同時に存在することを前提に設計された拠点だと感じました。
実際に施設に足を踏み入れて、最初に感じたのは「介護施設に来た」という感覚の薄さでした。
土足を脱いだ先には、湯気の立ち上る銭湯の空気があります。浴室には電気風呂、ジェットバス、高温サウナ。変わり湯もあり、近所の人が日常的に通う“まちの銭湯”として完全に成立しています。
重要なのは、この銭湯が「付帯設備」ではないことです。
ここは地域に開かれ、売上を生み、日々数百人、多い時では1日1000人以上が訪れる場所です。
だからこそ清掃、洗濯、備品補充、受付、サロン、売店、厨房、衛生管理など銭湯は仕事の粒度が細かく、役割を分解しやすい業態のため多様な仕事、役割へと繋がっています。
福祉の就労において最大の課題は「仕事をどうつくるか」です。
この施設は、その問いに対して「仕事が自然に発生する場所」を地域の入口に置くことで応えています。
銭湯が回り続ける限り、仕事は途切れない。だから就労が一時的な訓練で終わらず、日常として定着していきます。
高齢者も“働く側”に立つという設計
この取り組みの大きな特徴は、就労の対象が障がいのある方だけに限定されておらず、高齢者にも無理のない形で働く機会が用意されています。
きっかけはサービス付き高齢者向け住宅の入居者から出た「仕事がねえか」という一言でした。
多くの現場であれば、「年齢的に」「体力的に」と線を引いてしまいがちです。しかしここでは、「送迎の運転手が足りない。やってみませんか」と声がかけられました。そして、現在では朝の短時間だけ手伝う高齢者が現れ、週に数回、2〜3時間という無理のない就労が始まりました。
高齢者は単に人手として働くのではなく、役割を持つことで生活リズムが生まれ、自分が必要とされている場に戻ります。
その感覚は、健康や意欲にも確実に影響しているように感じました。
現場では、高齢者と障害のある方が自然に連携しています。
洗濯物の前段取りを高齢者が担い、畳みや仕上げを障害のある方が担う。
それぞれの得意が重なり合い、仕事が流れていく。
ここでは「共生」が理念として語られるのではなく、作業導線として成立していました。
多様な考えを深ぼる「未来会議」——妄想で終わらせない文化
見学中、印象的だった言葉の一つが「未来会議」でした。
若手職員を中心に、新しい取り組みや事業のアイデアを出し合う場だといいます。

多くの組織で、こうした場は「意見を言うだけ」で終わってしまいます。しかし、この施設では事情が違います。なぜなら、すでに銭湯、うどん屋、サロン、芋加工、焼酎づくりと、介護福祉の外側にいくつもの事業を実装しているからです。
突飛に見えるアイデアでも、「それ、やってみようか」と現場に落とせる筋肉がある。
だから未来会議は夢を語る場ではなく、次の実装を生む場になっています。提案が空論で終わらず、現場につながる。この感覚が、職員の視座を自然と引き上げているように感じました。
職員の柔軟性と成長機会——福祉の枠を越えて働くという経験
この施設を語る上で欠かせないのが、職員の柔軟性と成長機会です。
介護職が介護だけをするという分業はここでは絶対ではありません。
うどん屋の運営、スーパー銭湯の現場対応、芋焼酎の商品企画。
必要があれば管理職も仕事後に現場に入り、タオルを畳み、天ぷらを揚げるなどの対応をしたお話もいただきました。
実際、オープン当初は繁忙期と重なり、「盛り付けが違う」、「提供が遅い」などクレームも出たこともあり、恥ずかしい失敗の連続だったそうです。
しかし、その経験がマニュアル化につながり、再現性を生み、組織を強くしました。
「介護福祉だから仕方ない」ではなく、「商いとして成立させるにはどうするか」を本気で考える。
職員は福祉の現場にいながら、飲食やサービス業の視点も身につけていきます。
この経験は、職員にとって大きな成長機会に繋がっています。
介護福祉の専門性に加え、事業を回す感覚を持った人材が育っていく。
これは、将来の施設運営や新規事業を担う人材を内部から育てる仕組みでもあります。
いもを使った農業×福祉連携。A級品で挑む、新しいチャレンジ
木田の里を運営するグループ法人の一つ、あい福の就労現場では、芋を使った農業×福祉連携が行われています。
ここで扱われているのは、紅はるかやシルクスイートといったA級品のさつまいもです。
就労継続支援A型として雇用契約を結び、蒸し、乾燥、冷凍、再乾燥といった工程を経て、干し芋を製品化していく。工程は細かく分解され、誰かの得意が必ず活きる設計になっています。
注目すべきは、「福祉の商品だから買ってもらう」発想を取っていない点です。
あくまで商品として美味しいものをつくる。その結果として、仕事が生まれ、誇りが生まれる。
ここには同情ではなく、選ばれる理由があります。
さらにこの芋は、新しいチャレンジにもつながっています。

酒造メーカーと連携し、オリジナルの芋焼酎を製造する取り組みです。
芋の品種ごとの特徴を活かし、飲み比べができる商品設計にする。
福祉の文脈を前に出さず、純粋に「良い商品」として市場に出していく姿勢が印象的でした。
スタートアップとの連携——挑戦を受け止められる土壌がある
業界として先駆的な取り組みとして、スタートアップや外部企業との連携にも積極的です。
理由はシンプルで、「新しいことを試せる余白」があるからです。
銭湯、飲食、就労、農業加工といった複数の現場を持っているため、新しいサービスやプロダクトを実証する場が多い。しかも、導入して終わりではなく、運用まで落とし込める。スタートアップにとっては、テストマーケティングとしても非常に相性が良い環境だと感じました。
未来会議で出たアイデアが、スタートアップとの連携で形になる。
この循環が回り始めていること自体が、この施設の強さを物語っています。
見学を終えて——「支援する側」を増やす福祉は、地域を強くする
木田の里、あい福の里で見たのは、「支援される人」を増やす福祉ではありませんでした。
障がいのある方も、高齢者も、職員も、地域の人も、「支援する側」に回っていく仕組みです。
銭湯が地域の入口となり、仕事が生まれ、高齢者も含めた就労が成立し、役割が生まれる。
役割が生まれるから、生きがいが生まれ、次の挑戦につながる。
介護×就労×地域×スーパー銭湯。
一見派手な組み合わせに見えますが、やっていることは驚くほど地に足がついています。
ここには、福祉を制度で守るのではなく、産業とつなぎ直すことで未来をつくろうとする、強い意思がありました。
この場所は、これからの介護・福祉のあり方を考える上で、確実に一つの指標になると、そう確信できる見学でした。
施設概要

- 運営会社 社会福祉法人 福寿園
- 施設名 複合福祉施設 木田の里
- HP https://www.fukujuen.or.jp/facilities/chita.html#sec07
- 住所 〒477-0031 愛知県東海市大田町庄之脇1番地
- 業種 複合型福祉施設
※こちらは個人的な見解を含め書いておりますので実際に感じることと異なる場合もございますがご了承くださいませ。
















