2025.11.04 | 未分類
【5000万円融資の末路】「夢を応援したい」その優しさが7000万円の借金を生んだ。

(ゲストプロフィール)
株式会社バンソウ 代表取締役 谷岡遼 社長
大阪府松原市1987年3月生まれ。
38歳、関西外国語大学在学中に通信業のアルバイトを経験し卒業と同時に起業、エルネストリンクを設立。
13期目の今期から株式会社バンソウに社名を変更し活動中。(会社URL)https://bansow.co.jp/
「夢を応援したい気持ちって誰にでもあると思います」
今回は株式会社バンソウ 代表取締役 谷岡遼社長が語るスポーツジムの新規事業の失敗体験です。
この話、本当に他人事じゃないんです。
特に人の夢を応援したいと思う優しい経営者ほど同じ罠にハマる可能性があるからです。
Contents
週2回のトレーニングセッションで芽生えた「救いたい」という感情
2020年、コロナ禍のさなかでした。
谷岡さんは有名なスポーツトレーナーから定期的にパーソナルトレーニングを受けていました。
週2回、汗を流しながら体を鍛える中で、二人は単なるトレーナーと顧客という関係を超えて、いろんな話をする仲になっていきました。
トレーニングの合間に交わされる会話は、いつしか人生観やビジネスの話にまで及んでいました。
ある日、トレーナーが重い口を開きました。
「実は、過去に事業で失敗して…ジムをやりたいんですけど、企業に話すとアイデアだけ持っていかれるんです」。
その言葉には夢を持ちながらも報われない悔しさが滲んでいました。
あなたなら、信頼している相手からこんな話を聞いたらどう感じるでしょうか?
「この人、こんなに実力があるのに報われないなんて…」。
トレーナーは業界では知らない人はいないレベルの実力者でインスタグラムには多くのフォロワーがおり、大会での優勝経験も複数ある本物のプロフェッショナルでした。
そんな人が夢を諦めかけている姿を見て、谷岡さんの中で「変な正義感」が芽生えたのです。
「じゃあ一回やってみますか」
人の夢を応援したい、困っている人を助けたい、その気持ちは決して間違っていません。
でも、ビジネスの判断としてはどうだったのか。それは、この後の展開が物語っています。
「3ヶ月で300人」という根拠なき自信に飲み込まれた瞬間

「3ヶ月で300人の会員を集めます。内装から不動産まで、全て任せてください」。
トレーナーのその言葉には一片の疑いもありませんでした。
彼のインスタグラムには確かに数万人フォロワーがおり、インフルエンサーとしても有名で「知り合いのトレーニーの方に話しても、何々さん知り合いなんですか!って驚かれるレベル」の有名人だったからです。
当初の計画では、コロナ禍の新規事業支援補助金を活用する予定でしたがトレーナーはなぜか急いでいたことも今となっては気がかりでした。
「先にやりたい、先にやりたい」と何度も言われ、谷岡さんは融資だけ先に受けることを決断します。
その額、なんと5000万円。
私がこの数字を聴いたとき、思わず「え…」と声が漏れましたが谷岡さんの気持ちも分かるんです。
相手は実績のあるトレーナー、フォロワーもいる有名人。
「この人となら、うまくいく」と思っても、何もおかしくないですよね。
内装費とトレーニング機材で3500万円を投資し、計算では2年で回収できる見込みでした。
この時点で、谷岡さんの頭の中には成功のシナリオしか描かれていなかったのかもしれませんが彼がなぜ補助金を待たずに急いだ理由を、もっと深く問うべきだったと、今なら思います。
目標300人に対して現実3人の残酷すぎる結果
2ヶ月が経過し「3ヶ月で300人集める」と豪語していたトレーナー。
蓋を開けてみると、会員数は友達を含めて3人でした。
「すいません、3人ですか?ゼロがちょっと2つ足りない気がするんですけど」の質問に対して谷岡さんの苦笑いが音声から痛いほど伝わってきました。
計算では300人の会員でペイする予定でしたから3人という数字は目標のわずか1%です。
これは単なる遅れではなく根本的に何かが間違っているというサインでした。
さらに深刻だったのは会員が集まらないにも関わらず、トレーナーからのお金の要求だけが強くなっていったことです。
このアンバランスさに、谷岡さんも違和感を覚え始めていました。
「自分が有名になればいい」というズレた解決策に絶望する
谷岡さんはMEO対策、SNS広告、地域密着型の具体的な集客方法を提案しましたがトレーナーから返ってきた答えはまったく的外れなものでした。
「自分が大会で優勝してもっと有名になります」。
この瞬間、谷岡さんは気づいたはずです。「あぁ、見ている方向が違うんだ…」と。
確かに全国的に有名になることは素晴らしいことです。
でも、地方の地域密着型ジムにとって全国的な知名度はどれほどの意味があるのでしょうか?
必要なのは、その地域で「通いたい」と思ってもらえる施策であり、半径5キロ以内の人たちにリーチする方法でした。
しかし、トレーナーの頭の中には「自分がもっと有名になること」しかなかったのです。
価値観のすれ違い、スピード感の違い、そして何より「集客」という本質的な課題への認識のズレがもはや修復不可能なレベルに達していました。
決別後に待っていた想定外の嫌がらせ地獄

「一旦やめましょう。責任を負っていただくつもりもないですし、こちらで何とか回収していきます」。
苦渋の決断を下しましたが、待っていたのは想像を超える嫌がらせでした。
深夜に将来の悪口を言うLINEが届き、併設していたパーソナルジムの顧客を部下や後輩を使って自分のジムに勧誘するという、完全な契約違反行為が続きました。
「応援したい」という純粋な気持ちで始めたことがこんな結末を迎えるなんて。
谷岡さんは弁護士に依頼してなんとか契約解消に漕ぎつけました。
法的な処理が必要になるほど関係は悪化していたのです。
信頼して任せた相手からこんな形で裏切られるその精神的ダメージは、金銭的な損失以上に大きかったのではないでしょうか。
それでも谷岡さんは諦めませんでした。
「自分でやれば何とかなるんじゃないか」とそう考えて、2年間自力でジム運営を継続しました。
この決断には経営者としての意地とプライドがあったのかもしれません。
そして当初予定だった300人程度の会員まで増やすことに成功したのです。
5000万円の融資を受けて3人しか集まらず、パートナーとは決裂し、嫌がらせまで受けたことを考えると普通なら心が折れる状況です。
そんな状況で、さらに2年間も続けるその精神力には本当に頭が下がります。
ただ借入総額は7000万円まで膨らんでおり、本業である中小企業支援事業のスタッフは疲弊し、谷岡さん自身も「本業ってそもそもなんだっけ?」という状態になっていました。
何のために事業をやっているのか、その本質を見失いかけていたのです。
明確な撤退ラインが救った、最後の経営判断
「何年の何月までに、どれだけいかなければやめる」。
谷岡さんはここで明確な撤退ラインを設定したのです。
感情ではなく数字で判断する基準を作りました。
そして、その基準に達しなかったため事業を停止する決断を下しました。
この潔さが谷岡さんを救ったのだと思います。
ズルズルと続けていたら、借金は1億円を超えていたかもしれません。
本業まで潰れていたかもしれません。
撤退ラインを設定し、それを守ることは当たり前のようで、実際にはとても難しいことです。
なぜなら、「もう少し頑張れば」「次こそは」という希望的観測が経営者の判断を鈍らせるからです。
現在も谷岡さんは7000万円を返済中が、音声から伝わってくる彼の声には後悔よりも学びへの感謝が感じられました。
「理念とかに忠実に何のためにやるんだという目的と、過去のお客様に貢献の場を広げるサービス。ターゲットを変えるのは良くないっていうことが本当に身を絞って分かりました」。
この経験から重要な学びを得たと言います。
谷岡さんの本業は中小企業支援であり、日本の99%を占める中小企業の7割が赤字という現実の中で、「中小企業の成長を支援して日本を元気にしたい」という志を持っていました。
今思えばなぜスポーツジム運営だったのか?理念とは全く違うターゲットで異なる業界。
しかも既存顧客との接点はゼロでした。
新規事業は、既存顧客への貢献拡大であるべきだったのですが理念から外れた瞬間、事業は迷走し始めます。
それが、今回の失敗の本質だったのではないでしょうか。
「最初に決めておけばよかった」後悔が生む次の成功

「何年後かにここまで作れなかったら。そこを最初に起業する前とかでも擦り合わせができればよかった」。
谷岡さんのこの言葉には、深い後悔が滲んでいました。
最初、撤退ラインを設定しておらず、「何とかなる」という楽観で進めてしまいました。
事業において「お尻を決める」ことの重要性を痛感しました。
いつまでに、どの数字を達成できなければ撤退する。この基準がないまま事業を始めると、ズルズルと損失が膨らんでいきます。感情的に「もう少し」「あと少し」と続けてしまうからです。
冷静な判断ができるのは、数字という客観的な基準があるときだけです。
谷岡さんの経験は、「撤退も戦略である」ということを教えてくれています。
また「情に動かされるというかですね」と谷岡さんは自分の性格を率直に認めています。
「応援したい」「助けてあげたい」という気持ちが先に立って、冷静な判断ができなくなることは誰しもが経験したことでしょう。
ただし、事業判断は別なんです。
3ヶ月で300人集める根拠は何か?具体的な集客施策は?なぜ補助金を待たずに急ぐのか?内装に3500万円かける必要性は?これらを冷静に問うべきでした。
「やっぱりこれ経営者あるあるですけど、ついついそういう話が来たら、仕方ないかなって思っちゃいますもんね」。
この「あるある感」に売上が上がったら、相談を受けたら、ついつい「やってみるか」と思ってしまうことに大きな落とし穴があるのです。
7000万円の代償が生んだ過去最高利益という逆転劇
この体験の後、谷岡さんは本業に集中しました。
理念に忠実に、既存顧客への貢献拡大のみを追求する経営方針を徹底し、2024年は過去最高利益を達成したのです。
7000万円という高い授業料でしたが、得られた学びは計り知れないほど大きかったのだと思います。
失敗を嘆くのではなく、そこから何を学ぶか。
その姿勢が、彼を過去最高利益という結果に導いたのでしょう。
現在も返済は続いていますが、本業が好調であれば、いずれ完済できる。
そして何より、同じ失敗は二度としない。それが、谷岡さんが得た最大の財産なのかもしれません。
改めて今、「いい話」に心が動いていませんか?
「応援したい」という気持ちで判断しそうになっていませんか?
撤退ラインを設定せずに、「何とかなる」と思っていませんか?
谷岡さんの失敗は現在経営する多くの方やこれから起業する方への教科書です。
文字だけでは伝わらない「感情」があり、音声で聴くと谷岡さんの苦笑い、言葉の間、そして学びへの深い感謝が伝わってきます。
ぜひ、Podcastで聴いてみてください。
「あ、これ自分も同じくしくじりそう…」。
その気づきが、あなたの事業を救い、7000万円の失敗を未然に防ぐかもしれません。
次回のエピソードもどうぞお楽しみに。